月夜見 
残夏のころ」その後 編

    “見慣れないからかなぁ”


正月気分が去ったお次にやって来るのは、
成人式のお祝いムードだが、
今年はそれどころじゃあない大寒波が襲い来てしまい。
都心にまで降り積もった雪のお陰で、
車も電車も飛行機もという広汎で交通網はマヒするわ、
舗道やそこいらでもすべって転んで怪我をする人が続出するわ。
お若い人には直接的ではないかもだが、

 「野菜も一気に品薄だもんよな。」
 「そうそう。レタスが1玉500円弱ってどうよ。」

某トンネルの天井板崩落事故での
ルート制限の余燼もあってのことかも知れないが、
それにしたって、
流通への影響が大きかったのも否めぬ事実であり。

 「都会って本当に、気候の変動には弱いんだねぇ。」

まま、ウチはご近所の農家さんから商品仕入れてるからねぇと。
目に見えての直撃は受けなんだこと、ほうと安堵していた、
こちら直販スーパー“レッドクリフ”のバックヤードだったりするのだが。

 「で、昨日今日はセンター試験か。」

冬の歳時記もきっちり把握しておいでの大人の皆様ながら、
学校の行事は、お子さんがいないと なかなか網羅は難しく。

 「受験応援って格好での販促商品もなくはないですが。」
 「う〜ん、けどなぁ。」

そういうのってピンポイント過ぎて、
ウチみたいな生鮮中心の店じゃあ扱いにくいんだよなと。
“勝つ”とか“落ちない”とか
“すべらない”とかいう語呂合わせの商品の居並ぶ菓子売り場を前に、
唸っておいでの店長さんが ふと気がついたのが、

 「……ウチも年度は変わらない設定だったかな?」
 「そのはずですが。」
 「だよなぁ。」

いくら何でも、受験生にバイトを無理強いするよな俺じゃねぇぞと。
甥っ子の腕白坊主が高校生なの、今頃思い出してたりするのだそうで。

 「そのルフィは、今日は休みですか?」

大体、大学進学にしても
柔道がらみの推薦とかお声が掛かるんじゃねぇのかななんて。
バイトへ引きずり込んだせいで、
成績が下がったり受験に失敗なんて事にはならぬよう、
今更、気を回してやらにゃあなんて思っておいでの赤髪の叔父様へ。
判りましたからという代わり、
副店長がさりげなくも話題転換を持ちかければ、

 「おうよ。
  先週の連休に来てもらったんで、それへの代休だ。」

大事な甥だぞ、そのくらいはななんて、
気遣いを強調したいらしいものの、

 「そうっすねぇ。
  あちこちの道が凍ってて、
  ご近所が卸先のウチでさえ品薄に成りかねない、
  配達も難しいって危機だった連休でしたもんねぇ。」

 「………。」

そこをあのお元気坊やに
自前の足で走ってってもらったんでしたよねぇなんて。
結構な無理強いをしたも同然と、
店長相手に遠回しに窘めるおっかなさよ。

 「代休もいいっすが、
  いっそのことボーナス出しましょうか。」

 「そうした方がいいのかなぁ。」

相変わらずな相性のようでございます。




     ◇◇◇


相変わらずな大人たちでのツカミはともかく。(こら)
別段、これという予定があった訳でもなかったのに、
お休みにしてもらった日曜日とあって。

 “まあ、そもそもからして
  毎日曜 出てる訳じゃないけどよ。”

柔道部の試合があったりもするし、
他方、他の学生さんが出て来られる日でもあるので。
日頃からも隔週出勤扱いの土曜日曜だったりするルフィさんであり。
ただまあ、

 “店に出掛けないと……。”

そう、バイト先という条件でしか、
今のところは共通項を持ってない誰かさんに、
逢うことが叶わなくなるのは ちょっと詰まんないかもと。
兄から譲られた大きめのジャンパーに、
(注;着飽きてのお下がりじゃあなく実はぶん奪った)
ニットのマフラーをぐるぐる巻にしてあごやほおまで埋めている、
見栄えよりも実用優先、
ついでにどこか幼い風貌が強化されてるいで立ちのまま、
自宅からは ちょこっと遠出しての町中のコンビニまで、
雑誌とそれから気に入りのスィーツを買いにと、
わざわざ出て来た食いしん坊さんだったが。

 “…出て来たってもなぁ。”

実をいや このコンビニは、
ずっと以前にルフィが交流戦という格好で隣町の高校へと出掛けた帰り、
地元のやんちゃたちに絡まれかかった辺りの、ご近所でもあったりし。
ということは つまりつまり、

 「〜〜〜。///////」

ヤだな。俺、何か期待してね?
そんなつもりないけどサ、
もしかしたら奇遇とかゆうので、
すれ違ったりしないかな…なんて。
心のどっかで僅かにでも思ってないか?とかさ。
意識なんてしてねぇもん、ただちょっと暇だったしサと。
誰へ出もない言い訳を、ついつい並べてしまってる。
頬っぺがやたら赤いのは、
マフラーの端から吐息が吹き上がるからだし。
大体、ほれ、やっぱりそうそう逢えるもんじゃあない。
お目当ての雑誌とそれから、
新しいバージョンのが増えてたシュークリームと。
わしゃわしゃいう袋に入れたの提げて、さて。
すぐにも帰るってんなら、
俺のほうは今日は出掛けないからケータイで呼べなんて、
エースがややこしいこと言ってたな。
送ってこうかとか、買い物なら行ってくんぞとか、
俺以上に家で大人しくなんて苦手だからか、
そういう風に言ってくんのかと思ったのにな。
あんまりそそくさって出掛け方したから、
追い着けねぇかって諦めたのかなと。
ひょこりと小首を傾げたそのまま、てことこ歩き出したものの。

 「…で、だったじゃあないの。」

きゃあはははと甲高い
女子の声での弾けるような笑い声が唐突に飛んで来て、
何だなんだと視線がいった。
女子ってどんなに寒くても元気だよなぁ。
ああでも俺だって
同じようにシャンクスとかベンから感心されてるか…なんて。
ちょいと黄昏かかった気分のまんま、
遠い対岸の出来事みたいに、
コンビニと同じ並びになる舗道の少し先の、
ファンシーな雑貨屋の店先。
セール品を出してるらしい、
小ぶりなワゴンの周囲に立ってる人垣を見やる。
そちらもこの寒さへの防寒対策だろう、
ダウンやツイード、バックスキンという
おしゃれなジャケットやコートを羽織りの、
ボアの縁取りがあるブーツやレッグウォーマ装着の、
どちらかといや可愛らしい いで立ちの子らが、
キャッキャとはしゃいで群がっている。

 「…じゃない、知ってるんだよ?」
 「そうそう、隅に置けないんだ。」

語尾が弾んでいるのは楽しいからで、
そうなると寒いのなんて関係ないよな。
俺もサッカーのW杯の予選とか柔道の世界大会とか始まると、
その話で盛り上がってワクワクしちまうからな。
夏場の熱帯夜も眠たいのも さておいてってなっちまうのを、
シャンクス辺りは“若いなぁ”ってしみじみ感心してた。
それに引き換え ゾロは柔道も好きなんか、
3回戦の相手はなかなか襟を掴ませなくて、
○○選手も難儀してましたよねなんて。
ばっちり話が合っててサ…と、
思い出したついでのように、顔も赤くなったもんだから、
あややと焦っての照れ隠し半分、むいむいと首が縮こまる。
やばいやばいと速足になり掛かったそのついで、
何がそうさせたやら、顔の赤みが引いたかを見たかったものか、
ちらと視線をやった雑貨屋産のウィンドウに、

 “……あれれ?”

  何か見覚えのある背中が映ってないか?

それが此処の制服なのか、
白いワイシャツにベストとズボンのアンサンブルっていう、
かっちりした格好で。
その上へ帆布製の前掛けをしているお兄さんが、
ワゴンの担当なのか、
段ボールで運んで来た商品を
よいせよいせと手際よく詰め込んでるんだけれども。

 事務員さんみたいな格好なのにな。
 でもでも肩幅もあるし、背丈もあるし。
 脚も長げぇよな、しゅっとしててよ。
 大きい背中がすっきりしてて、
 腕をぐんぐんて動かすたび、
 肩甲骨んとこがぐんぐん盛り上がって頼もしくって。
 縫いぐるみ、片手で2つずつ余裕じゃんか、
 手ぇ大きいんだ、凄げぇなぁ。
 頭もあのくらい短いよな、
 首がちょっと太いのは鍛えてっからで…って、あれれえ?

 「おや、先輩じゃないっすか。」
 「あ"。」

窓へと映り込んでた背中ばっか、眺めていたらば。
お客の隙間からこっちが見えたか、
直接のお声が掛かったルフィさん。
ついつい“何だなんだ”と
キョロキョロしちゃったのはご愛嬌。
だってさ、
真正面から見たゾロは、
ますますのこと見たことがないカッコだったし、

 「知り合い?」
 「先輩って、でも小さい子じゃん。」

すぐ前へ居並んでいた女の子たちが、
ルフィより先んじて次々に会話を続けてしまうので、

 “…ありゃりゃ。”

もしかして同じガッコの子たちかな。
そういや、ここいらってゾロのガッコの学区内だもんな。
普通に歩いてたって顔は指すんだろし、
こんなカッコしてりゃあ、そりゃあ。

 “……カッコいいもんな、うん。”

女子が放っとかねぇのも仕方ないさと、
妙に早々、妙な方向へ納得したまま、
にひゃと微笑って離れ掛かったもんの。

 「あ、えと…先輩っ。」

何かに焦ったような声がして。
後から気がついたんだけど、
ゾロのあんな素っ頓狂な声って珍しいんじゃねと、
先輩さんから ちょっとの間、からかわれるネタになったほど。
へ?呼んだ?と小さな背中が振り返ったのと、
足元へ積んでいた在庫の箱入りぬいぐるみたちが、
蹴飛ばされてかつまずかれてか、
雪崩を起こしての、
通路に飛び散りばらまかれたのが ほぼ同時。
商品を踏んではヤバかったのだろ、
わったっとっ…と、危なっかしい飛び越し方をして避けた先。
何だなんだと振り返ってた先輩さんの背中へ、
ちょっと失礼と掴まってやっとのこと立ち止まり、
はぁあと大きい吐息をついてから、

 「ひでぇっすよ、呼んだのにシカトですか。」
 「え? あ、いやあの、でもサ。」

 うあ、何か間近じゃね?
 それにやっぱり、何か雰囲気違くしサ。///////

日頃は作業服とかトレーナーとか、
そういうカッコしか見たことないもの。
あと、そういや制服も見てるはずだけど、
詰め襟もいつだって前を開けてる着方してなかったっけ?
こういうカッコすると、何てのか、
日頃 モサイけど頼もしくって逞しい系のはずなのに、
スマートてのか、キリッとしてても見えちまってさ。

 「えっとぉ。//////」
 「もしかして暑いんじゃないっすか。」

やたら重ね着してると、歩いてるだけで蒸しますよとかどうとか、
何言ってんのかも把握出来ないまんまのルフィの手を取り、
ほらほらこっち来てと、雑貨屋さんの中へ引っ張り込んでく頼もしさ。
店内も暖房で暖かいのをつかつかと通り過ぎ、
店員用の事務所だか控室だかへ入ってくと、

 「ほら、コート脱いで。」
 「ジャンバーだ。」

言い返せるなら大丈夫かな、なんか飲み物持って来ますねと、
てきぱき動くのがまた、
スーツっぽい制服のままだからか、
切れがあってのカッコよく。

 「あんなあんな、ゾロ。」
 「なんスか?」
 「そーゆーカッコ、似合い過ぎだぞ。」
 「そそ、そうっすか?//////」

冷たいスポーツドリンクのペットボトルを差し出したお兄さんが、
今度はやや真っ赤になったのへ、

 “おやおやvv”

ご近所のよしみと、甘味処の隠居という伝手経由、
手不足なのでと急な売り子を頼んだ剣道青年にも、
あ〜んな可愛らしい“カノ女”がいたんだねぇなんて、
立派な誤解を植えつけちゃった、
まだまだ冬の寒さも厳しい、
日曜の昼下がりだったそうでございます。





   〜Fine〜  2013.01.20.


  *あうう、
   取り留め無さすぎですね、すいません。
   劇場版『STRONG WORLD』の剣豪の、
   ベストスーツ姿という
   珍しくもかっちりしたいで立ちに萌えたのを
   どっかで消化したかったんですが…。
   背中とか肩とか、かっちり引き締まって見えて、
   そのくせ脚がしゅっと伸びやかで、
   やたらカッコよかったですよねぇvv
   ルフィ船長、場合が場合じゃなかったら
   惚れ直してんじゃないかって思ったもんで…vv


ご感想はこちらvv めーるふぉーむvv

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